かわいい印鑑

かわいい印鑑イメージ

それは朝から曇っていてちょっぴり薄ら寒い冬の夕方のことでした。なんとはなしにみんながどこかイラついていて、通りすがる人でさえどことなく不機嫌な怖い顔をしているような、いかにもそんな冬2月らしい陽気でした。

10年ごとに当番が回ってくると以前お隣さんに聞かされていた町内会のこのエリアの班長がようやく回ってきて、おまけに役員も兼任してしまったわたしは、その日も区役所から通達のあった事柄を連絡しに、家から5軒先にあって普段はほとんどおつきあいの無い方のお宅へ回覧板を届けに行きました。

門のところでインターホンのボタンを押すと「すぐさま、ハ~イッただいまぁ」と若い女性の声で応答がありました。

かねて見知ってはいたこのお宅の奥様でしょう。廊下をバタバタと走る音がして、扉を開けてくれた彼女にわたしは、今こういうものを回しているんですが…と言うと、彼女は回覧板を手に取って素早く読み「いますぐお返ししますねぇ」と軽やかに応じてくれました。

そしてハンコでも取りに行こうと思ったのか奥へ引き返そうとしたので「あサインでいいんですよ」とあわてて言うと、彼女はそこでニッコリと笑って「でも取ってきます」とやんわりと言いました。

そうして彼女は今度は小さな鈴の音とともに玄関に帰ってきました。
そして彼女がその手に持っていたのは、チリ~ンとなんとも可愛らしい音のする小さな鈴とキーホルダーの付いた小さなかわいい印鑑でした。

彼女はそのかわいい印鑑で捺印してわたしに回覧板を戻し「ありがとうございました、ご苦労様です」と言ってくれたのです。
なんてかわいい人なんだろうというのがわたしの受けた印象でした。彼女の応対もかわいければ、鈴が鳴るキーホルダー付き印鑑もかわいかったのです。

それからあの鈴とキーホルダーの付いたハンコのことがずっと気になっていたわたしは、ある日街に出かけたついでに思い切って名前をCMで聞いていたハンコ屋さんの店内を覗いてみました。

するとあるはあるは、カラーのものやラメ入り、キャラクターものなど、それまでまるっきり知らなかったハンコの数々がそれこそ沢山並んでいたのです。
わたしがハンコ屋さんの店に入ったのなんて随分前のことでしたから、それこそビックリしました。

この業界のトレンドをまるっきり知らなかったのですね。そしてあの時イラついていたわたしの心をホッコリとさせてくれたあのストラップもここで見つけました。

てっきりキーホルダーとわたしが思い込んでいたのは実はストラップだったのです。
さらに見てみるとケータイに付けるストラップで小さな小さなカプセル型のハンコが付いたものもありました。

これははんこストラップとか印鑑根付(ねつけ)ストラップと言うのだと、人の良さそうなそのお店の方に聞きました。
和風の柄などもあってとても可憐な雰囲気でした。

おまけに言えば、ちょっとプロっぽい落款根付(らっかんねつけ)ストラップというのもあってわたしの目を惹きました。いやほんとうに目からウロコの心境でした。

でもその驚きを夜帰ってきた夫に言うと「そんなのフツーでしょ」と軽く決めつけられました。
どうやらいつのまにかわたしだけが世間の流れからから遅れていたようです。

あの時のわたしの何かイライラしたような、嫌~な空気を吹っ飛ばし「ホッコリとした温かな気持ち」にさせてくれたのはあの印鑑に付いていた鈴の音でした。

この印鑑根付ストラップを用意して、何かハンコを押す場面でもできたならその相手は誰でもいいから人をホッコリさせるような、素敵な応対を心がけようと今から楽しみにしているこのごろのわたしです。

ページの先頭へ